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このわのブログ

高かろう悪かろう

― 高かろう悪かろうの時代を越えて ―

「安かろう、不味かろう。」
かつて、その言葉は市場の戒めだった。

だが今、世の中はその反対側へ突き進んでいる。
“高ければ良い”という幻想の中で、
多くの人が**“値札の幸福”**を追いかけている。

かつての“安さ”は、工夫だった。
資源を無駄にせず、
時間を削り、
人の知恵で生まれた誇りある努力だった。

しかし今の“安さ”は、
誰かの犠牲の上に成り立っている。
賃金を削り、環境を壊し、心をすり減らす。
それを「企業努力」と呼ぶ時代になってしまった。

そして皮肉にも、
その反動として現れたのが“高かろう悪かろう”だ。

広告で飾られた「高級感」、
SNSで演出された「上質さ」。
だが、その裏にあるのは、
誠実の抜け殻だ。

値段を上げても、
職人の手間を軽くしてしまえば、
心は軽くならない。
高くなったのは価格だけで、
中身は空洞になっていく。

私は和菓子屋として、
その矛盾を幾度も見てきた。

「高くてもいいから上質なものを」と言う人ほど、
本当の“上質”を知らない。
それは素材の話でも、技の話でもない。
“向き合う姿勢”の話だ。

値段で信頼を買おうとするうちは、
どれだけ払っても、本物には辿り着けない。

だからこそ、私は値札より「循環」を信じる。

安くても誠実なら、それは価値になる。
高くても虚栄なら、それは負債になる。
価格は「数字」であっても、
誠実は「温度」だ。

このわの和菓子は、
“誰でも買える”ようにしている。
それは「安く売りたい」からではない。
**“誠実を、分け合いたい”**からだ。

利益よりも、
次へ繋がる循環のほうが、
未来を温めてくれる。

価格は変わっても、
味がのる心は変わらない。

それが、
“高かろう悪かろう”の時代を越える、
このわの答えである。

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