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― 気付いた民は農に還る ―
貨幣があふれ、
情報が渦を巻き、
「便利」という鎖に繋がれた社会の中で、
静かに気付く者たちが現れはじめた。
「自分の命は、誰の労働の上にあるのか。」
その問いに向き合った者は、
再び、土へと還っていく。
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農とは、
“生きる”と“働く”が分かたれる前の記憶。
風を読み、
太陽の角度で一日を終え、
土の温もりに季節を知る。
そこにあるのは、
効率ではなく、調和。
生産ではなく、命の継承。
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自国通貨を、
デジタルコインを——
評論家は叫ぶ。
減税を、
消費税をなくせ——
国民は騒ぐ。
だが、もし目の前にお金が湧き出たとき、
評論家は、自らの仕事をしながら公共のために橋をかけるだろうか。
国民は、自らの仕事に加えてお米を育てるだろうか。
労働をして、
その対価としてお金を稼ぎ、
やっとの思いで貯金をしても、
新たに紙幣が市中に流れれば、
お金の総量は増える。
つまり、
モノは一定のまま、お金だけが増える。
労働はいつも置き去りにされたまま、
誰もやろうとせず、
お金だけが膨らんでいく。
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気付いた民は、
もう奪わない。
もう比べない。
もう急がない。
代わりに、
手を動かし、
土を撫で、
感謝のうちに、明日を育てる。
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彼らの掌には、
信頼という種が握られている。
その種は、人の心に芽を出し、
やがて社会を覆う森となる。
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国が揺れても、
市場が止まっても、
太陽は昇り、土は息をしている。
そこに還る者たちこそ、
次の文明を支える“根”になる。
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富とは、土の中にあり。
幸せとは、共に耕すことにあり。
気付いた民は、
再び“農”に還る。
それは後退ではなく、
未来への帰郷である。
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農家このわ 中澤 力